開口性のよい手作り本

なぜ手製本になったのか

こんにちは。今日はちょっと前になるのですがホームページを見て大阪から依頼して頂いた本について紹介します。

はじめにこんなご相談いただきました。

「あの〜見開きで全面写真にした本を作りたいのですけどできますか? ホームページ見て手製本やってみえるって書いてあったんでできるかなっと思って電話してみました。」

普通の無線綴じの本はのりでがっちり背を固めてしまうので開口性(本の開き具合)があまり良くありません。だから見開きで全面に写真を持ってくると綴じた部分の写真が切れてしまうんです。

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通常そういう誌面にしたいときは中綴じ製本(2カ所はりがねで綴じた物)になりますが無料配布されているフリーペーパーみたいに安っぽいイメージになってしまいます。

お客様はそれがいやでいろんな製本屋を探していました。

なにかいい方法はないか考えていたときにふとPUR製本の事を思い出しました。ポリウレタンの特殊なのりを使用して紙の繊維と繊維をくっつけるタイプの製本で開口性もよく丈夫な本になるのでまずはそちらをオススメしました。

しかし、返ってきた返事は

「絵本のようにがばっとひらきたいんですけど」というお返事でした。」

PUR製本自体は接着方法を変えただけで製本方式自体は無線綴じと同じなので完全に開くことはできません。

それでわたしたちが提案したのが昔ながらの糊製本です。

実際どのような工程で冊子になっていったのかちょっとご紹介させていただきます。

実際の工程

お客様の希望として写真集のような会社案内にしたいというご要望でしたので写真の色にはこだわられていました。そして、やわらかい温かみのある本にしたいということで紙にもこだわりました。そこで今回は非塗工紙を使うことにしました。

非塗工紙はコート紙のように塗工していないので色がかなりしずみます。

通常、実際の印刷前に色見などを確認していただくために色校正というものを出します。その際は実際に印刷すると費用がかさむので下記のようなインクジェットプリンタでプリントして色見本としますが、この校正機はコート紙に印刷する事を前提として調整してあるので非塗工紙の色確認はできませんでした。

EPSON PX-H10000+Falbard Aqua
EPSON PX-H10000+Falbard Aqua

そこでコニカさんに来て貰いカラーマッチングソフトで調整して貰いもらい、ある程度、非塗工紙に印刷した感じがわかるようにしてもらいました。

ちなみにこのインクジェット機自体は50万くらいなのですが、カラーマッチングソフトは200万くらいします。CD1枚がこの機械の4倍するんです。納品された時は不思議な感覚でした。

以後ステップ順に紹介いたします。

1)画像補正

色が沈みますので頂いたデータのままでは真っ黒になってしまうため印刷時に適した明るさになるように画像データを補正しました。

2)色校正

そして先ほど紹介した色校正機で色見を確認しながら最終印刷物に近い色になるようにデータを調整していきます。

この段階で何度もプリントして見本に近い色に合わせて行きます。

ただし紙自体が違うので実際の仕上がりの感覚と同じにするには実際の紙に刷るしかありませんので本紙校正へと移ります。

3)本紙校正

インクジェット校正でOKが出たら製版へを移ります。版材はアルミベースでできたPS版を使用します。

製版機PLATERITE4300E
製版機PLATERITE4300E
印刷する版
印刷する版

4)印刷

製版が完了したら印刷行程へ回します。印刷は、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの4色を掛け合わせることでカラーを表現します。

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まず、試し刷りをし印刷されたパッチをコンピューターで読み取りその数値を元に適切な濃度を出して色を合わせて行きます。

印刷濃度をコンピュータで計測しているところ
印刷濃度をコンピュータで計測しているところ

ある程度色が出たら一度この印刷物をお客様に見て頂きます。これが本紙校正です。

本紙校正
本紙校正

そして、本紙校正がOKがでれば実際の印刷に入りますが、すぐにお客様に見て頂けるわけではありませんのでいったん印刷機を片付けます。

そしてOKが出たら翌日に再度版をセットして印刷を開始します。

5)製本(2折)

印刷が終わったら次は製本工程へと入ります。今回は糊製本ということですので、まず刷り終わった印刷物を2つ折りにします。

通常は自動折り機で折れますが紙が厚いので1枚ずつ足踏み筋入れ機で筋を入れてから二つ折りにしました。

筋入れ加工
筋入れ加工
筋入れ加工後
筋入れ加工後

6)製本(丁合)

2つ折りしたものを一冊の本になるように順番に並び替えます。

7)製本(背固め)

並び替えた物に重しをのせ、背に特殊配合したのりを塗ります。何度か塗り重ねをして強度を出します。

のりづけ
のりづけ

8) 製本(寒冷紗貼り付け)

背固めを完了したら、さらにばらけにくいように寒冷紗という布を貼り付けます。

その後にさらにクラフト紙を接着しました。

背固め
背固め
背固め
背固め

9)製本(表紙貼り付け)

筋入れした表紙を本文と貼り合わせます。

表紙の貼り付け
表紙の貼り付け
表紙の貼り付け
表紙の貼り付け

10)製本(化粧)

出来上がった本を3方化粧します。通常は10冊ずつ程度一気に化粧しますが背が柔らかいので1冊ずつ化粧していきました。

化粧
化粧

機械で行わない手作業での製本。手製本です。のり付けの所が難しくちょっとでものりがはみ出ると失敗作です。今回は100部の納品でしたが実際は400部印刷して350部製本しましたがきれいに出来たのは150部くらいです。

すべて同じにできない。それが手製本です。

できたものはこんな感じ。

IMG_2593

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ちなみに手製本は暇なときしか受注できません。申し訳ございません。